【第三の道】全体性の循環とつながりの中に生きる ~ 世界の新しいものがたり ~ サティシュ・クマール x 由佐 美加子 – 後編 –
~第2部~「質疑応答」
(会場の参加者A)
新しい物語を創りだしていくために、大学教育はどういう力を持っているのでしょうか?
(サティシュさん)
ほとんどの大学は、学生に仕事のための準備をさせています。そうではなく、人生のための準備となることをしてほしい。仕事は人生の一部です。でも人生のほうが仕事よりも大きいのです。
現在、学生たちは仕事を始めると人生を失います。生きる時間がなくなるからです。週末の間、仕事から回復しています。家族との時間もなければ、詩や絵を書く時間もない、音楽のための時間も踊るための時間もなくなります。仕事仕事仕事です。
我々には、頭とハートと手があります。だから大学のカリキュラムも3つに分けられるべきです。3分の1は知的で学術的なもの、残りはハート、つまり勇気や思いやり、信頼、愛、関係性を育むための時間、そして手によって何か創るための時間。
ポエトリー(詩)という言葉は、ラテン語のポエシスという言葉からきています。それは「つくる」という意味です。だからたとえ美しい庭をつくったとしても、それがポエトリーなのです。美しい家を建てたら、それがポエトリーになります。大学は若い人たちに手を使って何かを作ることをもっと教えるべきです。なので大学のモットーを頭、ハート、手にしてほしい。
シューマッハ・カレッジに来た生徒たちには、こう言っています。仕事を探しに行かず、自分自身で仕事を創ってください。クリエイティブになってください。イマジナティブになってください。起業家になってください。そういう種類の教育を私は望んでいます。
私が知っている教授たちの中には、自分の生徒を畑に連れて行き農業などを教えている人たちがいます。それは素晴らしいことです。しかしそういう教授たちは例外なのです。すべての教授に頭とハートと手の教育を導入してほしいと思っています。
(会場の参加者B)
持続可能な社会を創るには、どうすればよいのでしょうか?
(サティシュさん)
本当の持続可能性というのは、この地球がどこまでなにかを抱える容量を持っているかということを見ることなのです。大自然の資本というのが本当の資本で、経済的な資本というのは、目的を達成するための手段にすぎないのです。もし大自然の資本が枯渇すると、長期的に人間が生存することはできません。木を切ったりしたときには、同じ量、もしくはその2倍の量を植える必要があります。そして、自分の家を建てるためなど、必要な分だけ木を切るということは持続可能性となります。
もし森林を伐採し続けて、木を植えなければ、それは持続可能性ではありません。同じようにもし川を汚染したら、それを奇麗にする必要があります。そうして始めて持続可能性が生まれるのです。しかし下水を川に流し、プラスチックを海に流し続けていたら、それは持続可能性にはなりません。ホンダ、三菱、マクドナルド、コカコーラなどのビジネスの持続可能性ではなくて、自然資本の持続可能性なのです。
もし自然からなにかを取ったら、それを再び戻すことで、持続可能性となります。もし奪い続け、なにも戻さなかったら、なにもなくなってしまいます。そのとき一体どうするのでしょうか。もちろん技術や発明は役に立ちます。しかし技術やイノベーションは部分的な解決策なのです。人間的な解決策が必要です。人間的な解決策というのは、思いやり、理解、知恵が必要です。我々には科学が必要ですし、テクノロジーが必要ですが、それらは知恵や慈悲の心とバランスをとっている必要があります。知恵や慈悲は我々のスピリチュアルな資本です。スピリチュアルな資本、自然な資本、そして経済的な資本、すべてがバランスを取りながら踊っている状態が持続可能性です。
(会場の参加者C)
自分が行う環境保全活動の意味を多くの人に気付いてもらいたいとき、どういうメッセージを発したらいいのでしょうか?
(サティシュさん)
他の人に気付いてもらうためには、コミュニケーションを取る必要があります。いいコミュニケーションのスキルを育む必要があります。あなたのコミュニケーションは、効果的であり、誠実である必要があります。もし言っていることを実践していると、そこに一貫性が生まれます。書いたり、話したり、歌ったりなど、様々な方法でコミュニケーションを取ることができます。ジョン・レノンは、イマジンという歌を使って、コミュニケーションを取りました。ピカソは平和の鳩を描くことでコミュニケーションを取りました。なので好きな形を選んでいいのですが、他の人に対してコミュニケーションを取る必要があります。
もし百人の人がそれぞれ十人ずつコミュニケーションを取ったら千人に伝わったことになります。そして千人の人たちがそれぞれ十人の人とコミュニケーションを取ったら、一万人になります。そういう風にムーブメントを大きくしていくのです。
環境保全のための大きなムーブメントが必要です。大きなムーブメントは海を守ります。海にプラスチックがない状態になってほしい。いま太平洋はプラスチックで一杯です。なので、いかなる船も人も海にプラスチックを捨ててはいけないというムーブメントを生む必要があります。そして自分の人生をそれに捧げてください。海を守るというのはパートタイムの仕事ではありません。人生を捧げてください。マザーテレサが老いた人、死に行く人を守るために一生を捧げたように。海のマザーテレサになってください。
(会場の参加者D)
サティシュさんは、人に何かを伝えるときにどういったアクションを心がけていますか?
普通の人と良いコミュニケーションを取るためには、聴くという技術を育てる必要があります。ときどき、大学を卒業した人、東京の大学や、ニューヨーク、ロンドンの大学を卒業した人は、普通の人は頭が悪いと思ってしまいます。普通の人の方が素晴らしい知恵を持っていることもあります。シューマッハ・カレッジでは、生徒に聴くという技術を育ててくださいと言います。そしてきちんと聴いた後で話した方が、もっと上手に話せます。聴くための耳は2つあり、口は1つです。ダブルリスニング、シングルスピーキングです。インドでは、聴くということは女性的な質だと考えます。話すことは男性的。つまり、2対1の割合で女性性と男性性があります。H2Oと同じようにF2M。
普通の人たちは、あなたが言っていること以上にやっていることを見ます。たとえば歴史を例にとると、ガンジーやキング牧師は、独立運動や黒人の公民権運動に普通の人々を惹きつけました。彼らは聴くというスキル、そして他の人たちとって例となるというスキルを持っていました。だからガンジーのリーダーシップの元に、何千もの人たちがインド独立のムーブメントに参加しました。キング牧師についても同じでした。南アフリカのネルソン・マンデラもそうでした。
環境やエコロジーについての新しいムーブメントを創りたいのなら、中流の外に出て、普通の人たちに語りかける必要があります。普通の人たちに届けたかったら、彼らの中で生活をする必要があります。彼らの話しを聴く必要があります。そして彼らに在り方で示してください。シューマッハ・カレッジの学生たちはそういうことをしているのです。普通の人たちと共に働いています。コンピューターの前で、素敵なオフィスの中で座っていることで環境保全のムーブメントを作り出すことはできません。ガンジーやキング牧師がパソコンの前に座っていたら、インドの独立や黒人たちの公民権獲得が叶うことはありませんでした。
こういうことを話す私自身、イギリスの小さな村で生活したのです。子どもたちの学校を始めたかったときには、その村の人たちを全員呼んでミーティングを開きました。彼らに、なぜ新しい学校を作りたいのかを説明しました。そして彼らが教育についてどんな心配を持っているかを聴き、みんなで一緒に共同創造しようと言ったのです。私がロンドンなどの大きな街ではなく、一緒に村に住んでいるということを彼らは見ました。そして子どもを持つ親たちが、一緒に学校を始めようと言いました。このように学校は始まりました。
自分自身の人生を、そこに懸ける必要があります。世界を変えるということは、心が弱い人ができることではないのです。自分の命をそこに懸けて、はじめて普通の人と対話することができます。
(会場の参加者E)
心を強くするために、日ごろ取り組んでいることはなんですか?
(サティシュさん)
毎朝、妻とともにお茶を飲みながら、自分を触発させるような聖なる文書を読み、共に学びます。この共に過ごす時間は、ハートのためにとてもいい時間です。夫と妻の関係性は、ハートの関係性であり、それがあった上で次にマインドです。共に学んで、お互いに対して思いやりを持っているときに、お互いのハートが強くなっていきます。
そしてそういうものを読んでいるときに、インスピレーションが得られるのです。もし心を鍛えたかったら、毎朝妻でも愛する人でも誰でもいいので、経済でもなく、政治でもなく、新聞でもなく、なにか自分のインスピレーションの源になるものを学んでください。良い朝ご飯が、一日中自分の身体を使えるようにしてくれるのと同じように、良いスピリチュアルな読み物は、自分の心を一日中強くしてくれます。一緒に読むのはいいことです。なぜかというと速読のように読み飛ばすのではなく、一行一行読み、それについて話合うことで、お互いの人生の中でどうやってそれを実現できるかについて話合うことができます。そこにある言葉ではなく、意味につながろうとしているのです。他にできることはたくさんありますが、1つの例として、与えられる1つのアドバイスとして、そういうことがあります。
一日中我々はインターネットやテレビを見ていますが、どれもすべて表面的で、頭に対しては情報をくれますが、ハートを養うことはできません。ハートのためには詩を読む必要があります。スピリチュアルなもの、古典的なものを読む必要があります。(後編終了)(前編はこちらから)